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2007/10/04 YK氏


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「氏はどうしているだろうか。ひとつまたバカ話でもしよう。」
電話を掛けてみたが既に、氏は帰らぬ人であった。

―強烈だよねえ。
―主客合一。
―唯識の講義やってよ。
―契水が川のように。
―妙好人。
―水木しげるって大物すぎるよね。
―是非もなし!
―ゼロ度のエクリチュール。
―回向ってどういうこと?
―ボカァ合戦マニアだからね。ああ、合戦したい!
―頼山陽、フツーにうまくね?
―面白すぎるよねえ。

 「どうせ英語を学ぶなら、他国のことを学ぶだけでなく
  日本の文化を伝えられるだけの教養も身につけてほしい」

大学で英語教員を勤めていた氏の願いだった。
井原西鶴、鈴木大拙、三島由紀夫らの、英訳テキストを通じての講義。
維摩経をやりたいとも語っていた。
氏は学識に溢れ、人情に厚く、自らの偏向した思想をも
カリカチュアしつつ披露する度量と技量を兼ね備えた一人の偉才であった。
ユーモアに溢れ過ぎる発言のあまり、訝しまれることもあったろうと思う。
しかし、根本的なスタンスとして、氏は学問に対して真摯であり、
教員としての自覚と責任感に満ちた人物であった。
豪胆にして繊細だった。氏の行く先には常に、温かい笑顔があった。
好奇心に満ち、どんなことからも学びを得、糧とする人だった。

氏のような人物があったからこそ、私も微力ながらせめてその一助たらんと
大学という場所で働きたいと思ったのに。



先生。またバカ話したいよ。
何の腹の足しにもならない、人間の話をしたいよ。
まだ見せてない写真も、話してないネタも、一杯あるんだよ。
西田の話も聞きたいよ。敬意に満ちたバカ笑いと一緒にさ。
日本に未だ少しなりとも残された独特の精神風土を訪ね歩こうって、約束したじゃんかよ。
俺とはまだ山陰と長野しか行ってないじゃん。
唯識三十頌の話も、二種深信の話も、十牛図の話も、妖怪の話も、古事記の話も、何もかも途中のまんまだよ。
この夏には面白い本も見つけたんだよ。それを知らせたくて電話したのに。
人を笑わせるだけ笑わせて。楽しい思い出ばっかり残して。
逝ってしまうなんてあまりに酷すぎるじゃんかよ。とんだ大法螺吹きだよあんた。
それでいて感謝の思いしか抱かせちゃくれないんだからな。
「傑物」ってのは先生のためにある言葉だよチクショウ。



先生。さようなら。本当に、ありがとうございました。


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