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2008/03/23 移動中:ネレトヴァ・デルタ
ひたすら沿岸沿いの山道を進んでいると、急に緑の平地が視界に開けてきた。
石灰岩の岩山が連なるバルカン半島においては貴重な平野部の一つ。
ここに流れるネレトヴァ川に因んでネレトヴァ・デルタと呼ばれ、
緑の農耕地が向かいの山すそまで一面に広がっている
おそらく、ネレトヴァ川による侵食と土砂の堆積によって
長い年月をかけて形成された地形なのだろう。
この後、バスはネレトヴァ川を遡るように内陸へと進む。
バスのすぐ上を鷹が飛び越し、窓の景色の向こうへと去っていく。
足には鼠かイタチのような小動物が捕まえられていた。
同じくそれを見ていた一つ前の席のイタリア人がこっちを振り向いて
「撮って撮って!」とせがんだ・・・というか、
おそらく「日本人とカメラ」という組み合わせから
陽気な気分で皮肉ってみせたのだろうが、
「もう遠すぎるから撮れないよ」と軽くあしらっておいた。
しかしこのイタリア人には残念な運命が待っていた。
やがてボスニアとの国境に至ってのこと。
停車したバスに軍服姿の検札官が乗り込み
全員のパスポートを回収してまわるのだが、このイタリア人
あろうことかパスポートを持っていないという。
EU発行の身分証明書なら持っているらしく「これじゃダメ?ダメ?」と取りすがる。
検察官も致し方なく、一旦それを回収してバスを降り
車内で15分ほど待たされる。
ネット上での旅行記か何かでは、全員バスから降ろされて
荷物検査されるなどということも読んだ記憶があったが
幸いそこまで剣呑な雰囲気にはならなかった。
やがて検察官が戻り、一人一人名前を読み上げ、顔を確認しパスポートを返していく。
なかなか自分の名前が挙げられないので少しやきもきしたが、
ちゃんとボスニア入国のスタンプが押されて戻ってきた。
で、当のイタリア人はどうなったかというと、
パスポート不所持によりここでの下車を命じられた。
始終陽気を振り撒いていたイタリア人も
さすがにこれにはしょげ返っていた。
ため息混じりに荷物をまとめ、バスのステップを降りていく・・・
と思いきや、いきなり車中のみんなに大きく手を振り
少し照れたような笑顔で「チャーオ!」と一声掛け、彼は去っていった。
あの陽気さは一体どこから来るんだろうか・・・。
2005年8月26日
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