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2004/02/16 プラハ:「ヴルタヴァ」


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朝焼けに輝きを増していくプラハの街並み。
右手奥にヴルタヴァの川面が見える。

個人的な思い入れながら、スメタナの「ヴルタヴァ(モルダウ)」を聴くとき
最後の華やかな盛り上がりの部分に差し掛かると
ここから眺めた風景を思い出す。

チェコ(ボヘミア地方)の風土や歴史・伝承を題材に作曲された交響詩『わが祖国』、
その第二楽章ヴルタヴァで描き出される情景を
私はこのように想像しながら聴いている。
因みにこの想像には、一部資料に基づく情報と勝手な妄想が交えられているのでご了承下さい。
共感を得られる方があれば幸いです。

以下妄想。

ボヘミア南部の草原に端を発する小さな二つの水流。
これらが合流し、ヴルタヴァは滔々たる豊かな流れとなる。

ある朝、我々(聴者)は川下りに出る。
緑溢れる草原。そこここに茂る森。
朝靄の翳りと柔らかい光が視界を包み込む。
たおやかに揺れる川面は哀愁を誘う。

陽も高くなるにつれ、全ては闊達に動き出した。
肥沃な大地のさなか、獣達は跳ね回り、狩人は弓を放つ。
葉叢をそよぐ一陣の風。その駆け抜けた先を見上げれば鳶。
健全なる豊かさに満ちた午後の日差しを浴びて
我々の船は進む。

暮れなずむ川辺。
小さな村ではヴルタヴァの恵みを祝してか、ささやかな饗宴が繰り広げられる。
篝火の放つ光の揺らめき。ダンスに興じる男女の影が差す。
楽しい時も今は夢。人々の寝静まる間、
星月の影。川面の霊妙な輝き。
波間に浮かぶのは妖精や精霊達。ヴルタヴァは知られざる世界をも潤す。

翌朝。暁の煌めきとともにヴルタヴァは、普段の顔を取り戻す。
何事も無かったかのように。
闇中の神秘は夢だったのか。淡々と流れている。
振り返り思案するも束の間、流れの速度が急激に増す。
「ヨハネの急流」。怒涛のうねり。波飛沫が礫となって降りかかる。
何が起きたかも分からない程に混乱する船内。
全ては塵芥に帰するのか…。

不安が頂点に達した刹那、救いは立ち現れる。
波の向うに屹立する塔。プラハだ。
難所を切り抜けた船の中は歓喜に沸き返る。
カレル橋を潜り、堂々たる街並みに見下ろされながら
船はヴルタヴァと共に果てしなく流れ過ぎて行く。チャンチャン。
(実際はエルベ川に合流、ドイツを経てバルト海に流れ込む)

右上は、前掲「市民会館」で紹介した
1990年5月12日、プラハの春音楽祭のCDジャケット。
ラファエル・クーベリック指揮、チェコ・フィル演奏。
いささか聴きなれない強調なども施されているが、
熱演中の熱演といって過言ではないだろう。
この演奏に居合わせた人々は、
特に「ヨハネの急流」からプラハに至る場面と
長く続いた国難からの脱却を重ね、
目頭を熱くしたのではないかと想像する。

2002年10月29日

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