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2007/10/31 プラハ:カレル橋上の音楽家 3
沢山の路上演奏家が技を競い合うカレル橋も、
さすがに冬の夜ともなるとその姿もまばら。
あまり見るものもないかと思っていたら、
何だか面白そうなことやってるおじさん発見。
水を注いだ大小様々なクリスタルグラスを並べ、湿らせた指で
それぞれのグラスの縁を瞬間的に撫でながら音階を奏でている。
煌きのある澄んだ音が、粉雪とともにカレル橋を舞う。
曲目は「イエスタデイ」だの「天国への階段」などお馴染みのものだったが、これは凄い技だ。
人垣を越えてなんとか最前列に出て撮影。
三脚を立てるのは憚られたので、手ブレしないか緊張しながら撮影。
おっさんの手だけいい具合にブレてくれた。
撮影後、寒空に耐えながらも暫く演奏に聞き入っていると、「ヘイ、ジュード」を奏ではじめた。
ビートルズのメンバー間の確執が背景となった曲として知られているが、
ここチェコではまた別に重大な意味を持つ曲とみなされている。
近現代史を紐解けば、この曲はチェコ人にとって万感の思いなしには聞けないメロディなのだ。
1968年、共産党政権時代の旧チェコ・スロヴァキアでは
アレクサンドル・ドプチェクが共産党第一書記に就任。
「人間の顔をした社会主義」を掲げ
自由民主化に向けた改革運動「プラハの春」を展開する。
しかしその年の8月20日。短い「春」は戦車の地響きと共に過ぎ去る。
ドプチェクの改革路線を批判し続けてきた旧ソ連指導部は軍事介入を決定。
ワルシャワ条約機構軍60万人が旧チェコ・スロヴァキア領全域に侵攻した。
翌年にドプチェクは解任され、この一連の事態を「正常化」させるべく
以降のチェコ・スロヴァキア共産党は体制の強化策を図り、
言論弾圧・思想統制はより一層厳しいものとなっていく。
この時、チェコのポップス歌手マルタ・クビショバは「ヘイ、ジュード」のメロディに
軍事介入への批判と民主化と自由への願いを込めたチェコ語の歌詞を乗せ発表する。
このレコードは60万枚を売り上げる大ヒットとなった。
しかし、レコードはたちまちに発禁処分を喰らい、
回収されたレコードは見せしめとばかりに街頭でことごとく割られた。
これを所持するだけで「反体制」の烙印を押され、密告の対象とさえなった。
そして彼女自身も弾圧に耐える生活を余儀なくされることとなる。
それは、歌うどころか内職の袋貼りすらもできなくなるほどであった。
それでもチェコの自由化を求めた人々は、密かにこの歌を口ずさみ、
ある者はレコードを土中に埋めて隠し持ち、希望を繋ぎ続けた。
そして20年の歳月を経、1989年のビロード革命を迎えたプラハの街で、
この歌は再び地上で人々の口に花開く。
マルタ・クビショバは自由化への運動を長く下支えした一人として
バーツラフ広場の集会で30万人の市民に迎えられ、20年ぶりの歌声を披露した。
と、まあこんなお話でした。
こちらがマルタ・クビショバ版「ヘイ、ジュード」のビデオ・クリップ。
松本零士の漫画から出てきたみたいな流し目美人。
http://www.youtube.com/watch?v=g9QLFJKqaMw
2005年1月29日
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