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2008/03/27 モスタル:西日
旧市街のお土産屋さんが軒を連ねる一角に出る。
この年の7月、モスタルの旧市街は世界遺産に登録された。
倹しいものであっても、観光事業は
この街の経済を支える重要な産業の一つである。
西日にきらめく丸石の舗道を駆け抜ける少年。
彼は、そしてこの街は、これからどこへ向かっていくのだろうか。
写真とは関係のない話になるが、
現在、ここモスタルには一人の東洋人の像が立っている。
ブルース・リー。
彼がヌンチャクを構えている姿のものだ。
設置されたのはこの旅行から帰国後のことなので
残念ながら目にしたことはないけれど。
何故ブルース・リーなのか。
この街の人にとって、彼は勇気と正義の象徴として機能し得ると同時に、
どの民族ともどの宗教とも関係がないから採用されたのだそうだ。
この地で共有される英雄像は、
クロアチア人にもボシュニャク人にもセルビア人にも関係のない人物でなければ、
いずれかを贔屓したことになり、それが引き金で対立を生じさせかねない。
だったらいちいち造ることもなかろうとも思うのだけれど、
せめて思いを一つにできる「何か」を打ち立てたかったのだろう。
苦肉の策とはこのことか。
こうした例は他にもみられる。
確か2007年だったか、首都サラエヴォで
「紛争の悲劇を繰り返すまい」というコンセプトの下に
大きなコンビーフ缶の像が設置された。
ボスニア紛争当時に国際社会からの援助で配給されたものだという。
なんでも、どの民族によらず
国民全般が「とてもまずかった」という印象を共有している、かつ
いずれかの民族のみの悲劇を示すわけでもないので採用されたのだとか
(まあ勿論、感謝してということもあるんだろうけれど)・・・。
傍からみれば訳の分からないようなモノであっても、
その裏には複雑で深刻な配慮が隠されていたりするものだ。
2005年8月26日
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