2008/07/01 モスタル：セルビア人墓地　１

街の東側に聳える山へと向かう路地を抜けると、
ゴツゴツした石灰岩が剥き出しになった山岳地帯が露わになってきた。
粗いコンクリート敷きの小道を辿って登る。
その先には一面、荒れ果てた墓地が広がっていた。
碑文はキリル文字で穿たれているから
セルビア人墓地であることが見て取れる。

幾つかの墓碑は崩れ落ち、痛々しい弾痕が残されている。
ここで銃撃戦があったのだろう。
ボスニア紛争時、ここモスタルでは
ムスリム・クロアチア人の同盟勢力（独立派）が
旧ユーゴ体制派のセルビア人勢力を街から追い出す一方、
これに対してセルビア（旧ユーゴ）軍が郊外から砲撃戦を行ったという。
死者の眠る地は、互いにとっての防衛線となったのかもしれない。

焼け付くような日差し。
風が静かにそよぐ。

今、ここへ故人を偲びに訪れるセルビア人などいるのだろうか。
そう思った。
しかし、よくみればこの写真の墓碑も
修復されないままではいるものの、ちゃんと
碑文が読めるように立て掛けられている。
セルビア人も今では時折ここに戻って来るのだろう。

この墓碑を立てかけた人は、その腕に掛かる重みを
どんな思いで受け止めたのだろうか。

２００５年８月２７日